Munich


これはいい映画だ、と聞いていたので期待して見に行った。
ネタバレしない程度に書くように努力します
舞台は72年のミュンヘンオリンピックの選手村で、パレスチナ人ゲリラによってイスラエル人選手11人が拘束・殺害された事件を始まりとする。話の大半は、事件後のイスラエル秘密工作組織(モサド)による、殺害計画に関わったとされるパレスチナ人に対する復讐(つまり暗殺)の物語。世界中にちらばっているパレスチナ人を色々な秘密ルートを通して見つけ出し、暗殺していく。ミュンヘンオリンピックでの出来事、その後のパレスチナ人の殺害など事実に基づいてはいるが、登場人物や殺人計画の細かい内容などはほとんど架空のもの。
まず、素晴らしい映画だったと思う。映画として、とても楽しめた。歴史的事実を抜きにするとこれはとても出来のいいアクション映画だろう。2時間45分の上映時間の間ずっとスクリーンに釘付けだった。役者さんも素晴らしい。大御所イスラエル人俳優があちらこちらに脇役として現れているだけでも楽しめた。スピルバーグ効果なんだろうか。
でも残念だったのが、内容がイスラエル寄りだったことかな。“イスラエル万歳映画”と呼ぶほどでもないけれど、ちょっとそんな印象がある。なんていうか、この映画自体が“イスラエルの復讐”という単純なひとつの出来事として歴史の中から切り取られている感じがある。その背後にある歴史やパレスチナ人の言い分や、複雑な部分が結構無視されている。もちろん、多少は映画の中でも扱われているけども、登場人物による感傷的なひとつの“台詞”としてみなされているだけって気がする。(そこをすべてカバーするとあまりにも複雑すぎて、歴史映画になるから売れないだろうけど。)そりゃー映画として楽しめるからいいんじゃない、ということになるかもしれないけど、この歴史的な出来事を扱っているだけに、2006年というこの時代に出すには、メッセージ性があるのは必至だろうし、そのメッセージというものが一方的なものだったら、これは残念なことだろうと思う。ましてスピルバーグの大作において。現実は、一方的な意見で白黒つく問題ではないはずだ。
過去の“ひとつの”出来事として、ホロコーストホロコースト、とは言い切れないのと同じで、このミュンヘンオリンピック事件もその以前の動機やその後延々と続いているイスラエル/パレスチナの対立とか抜きでは語れないことだと思う。
特に、“イスラエル人がドイツの土の上でまた殺され。。。”とかいう感傷的な台詞によって極端にイスラエルに同情するようなメディアでの表現とか、疑問を感じる。もちろんミュンヘン事件そのものはパレスチナ人によるテロ、というのは明確だけど。この映画の中でもそんな感じの表現がいくつもあった。(特に復讐組織のリーダーのお母さん!あまりにも典型的なユダヤ人母ぽくて面白かったけど。)
とにかく、この問題の根本はいたるところで人が死につづけている、お互いが殺し続けている、ということだ。という感じが映画を観終えたとき、頭の中に残った。
それにしても、いい映画だったと思う。Mathieu Kassovitz(マティウ?カソヴィッツ)がすごく輝いていました。まぁ、個人的に大好きなんで。