The Fog of War

 
またシビアな映画か。
劇場で立て続けに観た2本がイスラエルパレスチナ関係の映画で、これを見る前にDVDで13 Days 13デイズ [DVD]というのも観た。(これまたパワフルな映画だった。)この内容じゃ自分に厳しくなりすぎてる気がする。しんどい。そしてこんな印象深い映画を一気に観てしまうってのが、もったいないなあ。。。
とにかく、このFog of War、自分が今まで見たドキュメンタリーの中でもすごく大事なひとつになった。いろんな意味でとてもタイムリーな作品でもある。ロバート・マクナマラという、60年代にアメリカの国防長官をつとめた人が、85歳になった現在(公開時2003年)、自分の過去の仕事を振り返る、と同時に自分がくぐり抜けてきた戦争というものを振り返る、という内容。インタビュー形式なんだけど、このマクナマラさんという人、喋りは強烈に鋭く、元気で、面白い。
上に書いた13 Daysという映画の題材にもなっているのだけど、J.F.ケネディ政権下の1962年、キューバに当時のソ連軍によって核ミサイルが持ち込まれ、米国は攻撃の危機にさらされる。そのときの国防長官がマクナマラである。この出来事は、第2次大戦後最大の核戦争の危機だった。核が発射される直前のところまで行ったらしい。お恥ずかしいですが私はこの映画を観るまでこの事を知らなかった。しかしアメリカとソ連との交渉の末に、ソ連キューバから撤退することを合意する。言ってみれば、よくやったケネディ万歳。(シニカルになるべきかならぬべきか?)そしてその交渉に費やされた時間というのが、13日間。この映画ではその13日間のホワイトハウスでの緊迫感がよく伝わるし、特に軍人たちの間抜けなぐらいの好戦的人格がよくわかる。(結局、戦いたいのはみんな軍人なのかな)マクナマラは国防長官という立場からアメリカ軍の動きを監督するわけだけど、彼は軍の将校たちとは全然意見を共有しないし、なんとも彼の機敏さには好感が持てる。少なくとも映画の中では。
とにかくマクナマラ、このキューバの危機の時もそうだけど、ケネディの側近としてたいした活躍をしたそうだ。特に、ベトナム戦争においてはアメリカにとって“大活躍”。こういう経歴もあってか、彼はよく酷評されていた人らしいのだけど、このドキュメンタリーを観て、ああ、この人の言っていることはなんて大切なんだろう、と思った。今のアメリカのことを考えると、なおさら。というか、喋りを聞いていて、マクナマラは今のアメリカ政権には反対している、というのが間接的にわかる。彼が挙げる教訓の中にある、“敵の身になって考えよ”、とか“自らの理由付けを再確認せよ”のようなことを、おそらくひとつもこなしていない、今日のアメリカ政権。
映画の中で彼も言っていたけど、政府の中の人間にとって、戦争中はよく考えて判断する力が弱る。とにかく忙しいし、毎日が危機。だから間違いが起こる。これは戦争なり闘争なりを後から回想して初めて考えられることなんだろうけど、たとえばジョージ・ブッシュがこの映画を観て“あれれ、僕のやってること間違ってるのかなあ”って考えてくれてるのだろうか。考えてくれるといいな。
マクナマラの言っている多くのことに共感できる。なんたって、85歳の彼が凄い威圧感をもこめて喋る。自らの関わったベトナム戦争を分析し、反省している。(というふうに感じ取れる。)でも彼は理想主義者ではないし、彼は戦争が、(どんな理由であれ)あちらこちらで続くってのは変わらないよ、と言う。この言葉が重く響く。

なんだかこんな短い文(長いか)では書ききれないぐらいのことが詰まってる作品。