戦争中のブログ

このところ読んでいたものの中で、 この記事から、いくつかリンクが貼られていたので読み始めた。(mipopen、リンクをありがとう!)レバノンイスラエルのブロガーたちが様々な視点で書き、互いに議論しています。(もちろんイスラエルレバノン以外の人達も)
上の記事でも紹介されていたLisa Goldmanさんという人のブログ 『On The Face』が特に印象的だった。その中の、この記事: 『Time Out in Beirut and Tel Aviv』このエントリーを紹介したいので、簡単に訳してまとめてみます。(エントリーは7月31日付けです)
(長文注意)

Time Outというエンターテイメント雑誌が世界各都市にあるのですが、(ロンドン発祥、NYやヨーロッパ各都市を初め上海・ボンベイ・メキシコ・モスクワ・イスタンブール・ドバイ。。。と各地で発行されている)このLisaの記事で、そのTime Outテルアビブ版、ベイルート版の各編集者の間でのやりとりを読むことが出来る。編集者Amir Ben-David (イスラエル)とRamsey Short(レバノン)は、つい3ヶ月前にTimeOutの国際ミーティングで初めて出会い、二人はすぐに意気投合し、友達になったんだそうです。


↑これは、7月20日号Time Outテルアビブの表紙。中央に走っている川はテルアビブのヤルコン川。その川を境に北と南が二つに分かれている、という図です。前方にあるのがテルアビブの街。川の上方、右側にある二つの名前はバグダッドとテへラン。左側にある名前の集まりはハイファやアッコなどイスラエル北部の被害を受けた地域。そして一番上にあるマンションビルの集合体のようなのがベイルートです。
Time Out テルアビブのAmir Ben-David は、この表紙に関して以下のようにコメントしている:

この川がテルアビブを“他の世界”から分離しているこの図は、皮肉にも私達の孤立した生活というものに関係して、自分の周りで起こっていることを無視するのは不可能だ、ということを表している。私たちは皆つながっているし、この国はこんなにも小さい。北部に住んでいる友達や家族もいるし(車でわずか1時間の距離)、もしくは爆撃を逃れて難民になってしまった人を知っているし、緊急予備軍に招集されている親戚がいたりもする。私たちは皆、ニュースや新情報を手に入れようとテレビやインターネットに釘付けになっている。そして皆、心配している。


Time Outベイルート版第1号が発行されたのは今から4ヶ月前。

↑紛争が始まる前に発行されたTime Outベイルート7月号の表紙。夏のミュージックフェスティバル等の情報が。有名なBaalbeck Festivalについても書かれていますが、これらのフェスティバルは当然のことながら中止に、そしてTime Outの発行も見送りになってしまったそうです。Ramseyはまだベイルートに居ますが、(7/31現在)スタッフの半分は避難しました。

Time Out テルアビブ7/20号の特集は、このRamsey とAmirとの間のつながり、友達関係、そしてこの戦争が及ぼした影響に関するものでした。Amirは以下のように書いています:

僕とRamseyは5月にTime Outの国際ミーティングで出会った。象徴的なことに、ミーティングが開かれたのはレバノンイスラエルを地中海の平和なスポットから見渡すことができる、キプロスだった。
僕たちはたちまち意気投合した。このTime Out Tel AvivとTime Out Beirutの編集者同士の仲の良さは、すぐにミーティング中で注目されるようになった。

Time Out ベイルート(第一号が出版されたのは国際ミーティングのほんの数日前)の編集者Ramsey Shortは、落ち着いていて、フレンドリーで気楽な人間であることがすぐにわかった。『ヘドニスト(快楽主義者)のためのベイルートガイドブック』を書く傍らエレクトロ系クラブでDJを楽しむ彼は、テルアビブでもしっくりくることだろう。

今彼は、ベイルート港近くの自宅で、イスラエルの爆撃に恐れながら、ひっそりと隠れている。今回の特集では、彼の憂鬱な経験や、さらにもっと憂鬱な結末について読むことが出来るだろう。彼の言葉は、怒りに溢れており、フィルタを通さない荒っぽいままのものだ。イスラエル人にとっては、読むのが困難な内容だ。たとえ、ヒズボラの威嚇に対するイスラエルの「強力な報復」を支持する人でさえも、何万人ものレバノン人を傷つけ、Ramseyのように平和を作ろうとしている人間をも傷つけ、こうした状況の下で彼らをイスラエル嫌いの人間に変えてしまっていることが果たして正しいことなのか、自問するべきだ。

5月にキプロスで僕らは、僕らの過去は暴力的な原理主義者に属するもので、未来は自分たちのもの−平和と繁栄を欲するイスラエル人とレバノン人のもの−という信念を互いに表現した。Time Out ベイルートの出版社のナハメ・アブと彼の妻、ナオミ・サージェントと共に、僕らはこの地域に存在する問題をわずか5分のうちに解決し、これから来る年月のことについて考え始めた。二コシア空港での別れ際に、僕らはお互い家に帰った後すぐに、『Time Out地中海文化フェスティバル』 を一緒に計画しようと約束した。イスラエルレバノンキプロスとトルコによる音楽、映画、ダンスと劇の3日間。
月曜の午後、僕はナオミから一通のメールを受け取った。ナハメはロンドンにいる。彼女と子供たちはイスラエル空軍の標的を逃れているベイルート郊外のキリスト教徒の町で、比較的保護されている状態だ。朝、ナオミはある緊急の仕事を済ませるために(ベイルートにある)出版社に行かざるを得なくなった。爆弾がひとつ、彼女のすぐ近くに落とされた。彼女はすぐにオフィスを出て、街に戻るために車に飛び乗ると、もうひとつ爆弾がすぐ傍で落ちた。「ここでは市民が殺されている。」と彼女は書いている。「そしてこれは、すぐにやめさせられるべきだ。」
Time Out地中海フェスティバルは、また違う機会に開かれることになるだろう。

(Lisaの言葉)

ここからの記事は、Ramseyの書いているブログ『Beirut Live』からの抜粋が紹介されている。ここで書かれているのは彼と他の二人が綴る自分たちの思いと体験。Amirが書いているように、これはイスラエル人にとっては簡単に読むことの出来ないブログだ。イスラエル人に対する怒りや訴えで溢れかえっている。それらは頻繁に嘘の情報であったり、パラノイアだったり不当だったりする。私自身、全てのエントリーを読むまでに至らなかった。それは他の様々な掲示板やブログで何度も繰り返されていることだったりするので、それをまた初めから読むということの理由が見つからなかった。

(中略)

時に人は心情的ストレスに置かれていると、酷いことを言う。たまには、一歩下がってかんしゃくをすっきり洗い流さなければ。それが自然に乾くまで待って、そうすると事はひとりでに道理にかなってくる、というものだ。


特に最後の段落はとても大切な事だと思う。イスラエルに住んでいるLisaがこれを言う事ができたのも重要なことだし、心情的ストレスを直接感じていない私にとって、逆にこのことを考えるのはとても意味のあることだと思った。戦いの真っ最中で、両側とも怒りとHatred(嫌悪感のような、大嫌い感)でいっぱい。レバノンのニュースソースと、イスラエルのそれとの間のギャップにおどおどするだけだ。何が正しいの?何が似非なの?って感じで。そういう中で真っ向から話をし続けている彼ら(のうち多くは話すことをやめてしまったけれど)のことは、常に追いかけて行きたいな、と思う。Lisaは次のように書いている:

イスラエルにこういうことわざがある −ミサイルが落ちると、討論が止まる。− それなら、話し合うのに丁度いい時間と言うのはいつになるんだろう?もう遅すぎる、ってなってしまってから?すでにダメージが与えられてから?

こう言われると、外側にいる私たちがあえて考えるべきことが沢山あるんじゃないか、とも思える。「当事者じゃない人が外側から、より正しいこと、より良いことが言えるのか。」とある人はLisaへのコメント欄で書いている。確かに、この意見が正しい部分はある。けど私が観てきた限り、現地の人々が作っているブログ、サイト、他中東で書かれているものを読んでいると、「誰が一番犠牲をこうむったか」の競走のような気がしてしょうがない。といったところで、私がこんなこと言える立場では全然ないだろうし、とても不謹慎で失礼なことかもしれないけど、とりあえずそう思ったので書いておく。そりゃ私はこの話題に、頭を突っ込みたい。個人的に近くに思える場所や人々のことだし。でもそれ以上の何かがあるんじゃないか、と考えさせられる。それが何なのかはまだよくわからないけど。

英語の読める方は、この記事に対して寄せられたコメント欄も是非読んでいただきたい。→ http://ontheface.blogware.com/blog/_archives/2006/7/31/2183044.html#comments

ついでといってはなんだけど、このLisa Goldmanのブログ等を読んだあとすぐに、同居人のラン君もブログを始める、といって書き始めた模様です。ラン君は、イスラエル出身です。軍隊に居た頃はレバノンの南部でコンバットの医務係をしていたそうです。10年前にイスラエル軍がカナを空爆して100人以上が殺された(『怒りの葡萄作戦』または"Operation Grapes of Wrath"というコードネームがついている。)丁度その頃です。
ラン君のブログ→ The B Box
追記:Time Out Beirutの編集者Ramsey Shortのブログ:Beirut Live 
Time Out Tel Aviv
Time Out Beirut