難民キャンプの展示

今、NYのセントラルパークで難民キャンプを再現した展示が開かれているということで、行ってみた。
Doctors Without Borders(国境なき医師団)の人達がやっているもので、公園の中にテントを張って、世界各地での難民キャンプで人びとはどうやって生活しているか、住居、トイレ、食べ物、飲み水から医療設備まで細かく見て回ることができる。20人程度のグループにガイドさん一人ついて色々説明しながら展示エリアの中を連れて歩いてくれる。屋外で行われているせいもあってか、全体の雰囲気は明るかったと思う。それでホッとするわけでもないけど、普段は知ろうともしていない情報を目の前に観たり聞いたりすることができる、貴重な体験でした。
私の入ったグループのガイドさんは、疫病を専門に現地で働いているというアメリカ人の女医さん。今まで、コロンビア、チャド、スーダン等のキャンプで働いた経験があるらしいです。
ツアーはまず、なぜ人びとは難民キャンプに住まなければいけないのかという説明から始まる。戦争や国内紛争のために避難せざるを得なくなる人々。紛争のあとに残る地雷の影響も説明された。レバノンに落とされたクラスター弾の不発弾が10万発も残っているということが記憶に新しい。
次は住居の展示。数種類のテントや簡単な「納屋」のような建物が実際使われる材料で建てられている。テントの外にはゴザが敷かれていて、そこに食器や子供のためのおもちゃが置かれている。一日のだいたいは、外で過ごすことが多い。それでも世界各地の天候にもよるわけで、ガイドさんによると、コロンビアで使われているという木造の4畳半ぐらいの建物には、大抵家族6人程度で生活しているらしい。雨が多いってことを考えたら。。。国内紛争の絶えないコロンビアでは、国内避難民の数は世界第二の多さらしいです。
そしてツアーは、食事編へと移る。大半は穀物や豆類で補われている。細長いバーのような非常食を実際に試食してみたりすることもできたんだけど、これは不味かった。ガイドさんも言っていたんだけど、まず、自分の住んでいる街でいきなり紛争が始まるとする。自分ちの前で銃撃戦が行われている。それで家族一斉に急いで避難しなきゃいけないことになったら、まず持っていくものは何だろう。鍋とかヤカンはまず、持たないよね。で難民キャンプに到着するも、鍋がないと料理ができない。そこでほとんどの人達が食べるのがこの非常食。
飲み水編では、水を汲み込んで貯めておく大きなタンク(ゴムのような素材でできている、折りたたみ式タンク)が設置されている。水は塩素消毒して生活/飲料水にされるらしい。この展示の場所で、ガイドさんがチャドで出くわしたエピソードについて話してくれた。医師団の水道担当で働く人達がタンクの水の中に塩素タブレットみたいなものを入れるらしんだけど、それを観ていた難民の人達の間で、ある日「あの外国人たちが水に何かわけのわからない薬を入れている!」という噂がものすごいスピードで流れた。そうして、キャンプ内の人達はその水を一口も飲まないようになってしまったのだそうです。それを聞かされて、苦笑いをする私達。その後感じたのだけど、それは医師団の努力が報われなくてかわいそう、の苦笑いなのか。難民の人達の「無知さ」に苦笑いなのか。無知さといっても、アフリカ中部に暮らしていて塩素消毒なんか知らなくたって無理はないだろうし。。。
難民としてキャンプに住まわざるを得ない人達にとって、最初にぶち当たる壁は、生活環境の変化だろう。これによる精神的ダメージは、計り知れないと思う。そして、これから自分はどうやって暮らしていくのか。どのくらいここにいなきゃいけないのか。だから「外国人が自分らの飲み水に見たこともない薬を入れている」、というのは、まったく自然な考え方なのかもしれない。医師団の人達のやっている事を批判するつもりは全くないけど、ある日突然自分の住まいが粗末な小さいテントに移されて、周りの人達と全てを共用して暮らさなければいけない。食事もトイレも。飲み水も。それがどんな気持ちなのかな。疫病や飢餓の情報ばかりが入ってくるけど、今までこういうことを考えたことはなかった。
そしてそのテントで生まれて死んでいく子供達が数え切れないほどいるのは言うまでもない。
長期にわたる難民生活で、人びとの自殺率も高くなるという話も聞かされた。
最後に思ったことは、こうやって「きちんと」企画された大がかりな展示に参加しない限り、知らないことだらけ。その多くは知ろうともしなかったことだらけだなぁ、と思う。
そしてなんだか、とても甘やかされた気持ちになる。
でもこの気持ちっていうのはある意味危険なものなのかな、というのも感じる。
自分をとがめるような感覚に陥ったら、そこから先が考えにくくなる。そこで終わってはいけない。
ここで観た事や感じた事、どれだけ忘れないで自分を考える材料にしていけるか、というのが課題なのかな、と。

セントラルパークでの展示は、日曜まで、その後ブルックリン、ジョージア州アトランタテネシー州ナッシュヴィレ、と移動するようです。近くにいる方は行ってみたらいかがですか。
難民キャンプの展示: http://www.refugeecamp.org/
国境なき医師団(日本): http://www.msf.or.jp/
(英語)http://www.doctorswithoutborders.org/