Dagmar Krauseとブレヒト

上のアレントの記事、ヴァイルとブレヒトの音楽を聴いたときの嬉しさを書きたい気持ちを押し殺して書きました。同時代の人だからつい。タイトルになってるDagmar Krause(ダグマー・クラウセ)ですが、彼女は70年代からやってるうた歌いさんで、最近、彼女のCDを買いました。詩ベルトルト・ブレヒト/曲クルト・ヴァイル、それから詩ブレヒト/曲ハンス・アイスラーの歌を20曲ほど収めたアルバムです。CDだと、手に入りにくいので小売価格の何倍出したかはわかりませんがちょっと高かった。それはさておき、これがもうすーごくいいアルバムです。
彼女を知ったのは70年代にやっていたSlapp Happyというバンドのボーカルだった、というところから。きょとん、とした声がなんだかとても魅力的で、で年を増すにつれてすごく強くて素敵な低音がついてきて。Slapp Happyの音楽は大好きです。他に彼女が関わったHenry CowとかArt Bearとかもぜひ聴きたい。今回買ったソロのアルバムは86年作なんだけど、彼女がブレヒトとかワイルの歌を歌っていたなんて全然知らなくて。ネットで見つけたときには熱いため息が出てしまった。いや本当の熱いため息が出たのは実際曲を聴いたときにです。
彼女の声は女らしく艶っぽいとかいうのと正反対の何かだなぁと思う。彼女ぐらいの感情の入れ方が私は好きです。歌手としてはLotte LenyaとかGisela Mayとか、すごくすごく素敵にこの辺の歌を歌う人々がいるけど、Dagmar Krauseの声、私は好き。ハンマーで叩いてるんじゃなくて、ハンマーで叩かれても抵抗してるような。(って何なんだろうね。)

で、いいタイミングでうちの郵便受けに届いた映画が、ブレヒトの最期を描いた映画、『The Farewell』。ブレヒトが亡くなる3日前ぐらいの、ベルリン郊外のBuckowという小さな村でブレヒトと妻、娘、そして彼と共に仕事をしていた人々がみんなでとった夏の休暇の最終日。その1日の様子が淡々と、やや複雑に描かれています。複雑に、というのは、、、たとえばしーんと静まり返るような湖畔の風景のなかで、ちいさな焚き火をして帽子を燃やしている若い女の人がいたり、というところかな。(それは実は、ブレヒトの奥さんが帽子の悪臭を常々訴えていたために、ブレヒトの娘が燃やしてしまったんだ、とわかる。)
全く知らなかったんだけど、ブレヒトは彼といっしょに仕事をした(結構な数の)女の人たちと愛人関係にあったようで。奥さんも子供もいるのだけど。で、その休暇に一緒にでかけているのが愛人の女性4人。そのうち一人は旦那も一緒に連れて。この意外な発見とその奇妙さに最初の方はオドオドしてしまった。
でもそうか、そりゃ女のほうがこの人に落ちるわな、というのもわかる。

映画のシーンはすべて休暇先のBuckowのもので、そこからブレヒトが戻るはずのベルリンのべの字もみえない、という印象だけど、冷戦時代の厳しい監視体制の現状はそこにもある。映画の最後はとても悲しく、やるせない。

昼食中、控えめのにやけっ面で下を向くブレヒト役の人の顔がとっても印象的だった。